SPACE


浅香山
動物
病院

猫の病気


ハンディキャップのある猫のケアー


 猫がけがなどのために,手足が1本なかったり,目がみえなかったり,下半身不随であったりすることがあります.あるいは生まれつきの障害で,上あごが裂けていたりすることもあります.
 生まれつきの障害で,この先もっと悲惨な結果が予想される,といった場合には獣医師は安楽死をアドバイスします.たとえば上あごが裂けている場合,それを縫って閉じるのが困難だと,ミルクが気管から肺の中に入ってしまって肺炎を起こす可能性が高く,そのような場合には安楽死という選択が正しいものです.
 生まれてすぐの感染やけがで目がみえなくなった猫はどうするべきでしょうか.この場合には,家の中で飼育するという条件であれば,よいペットとして生活を共にすることが可能です.外に出すと交通事故の危険があるので,それは絶対に避けるべきでしょう.
 けがや悪性腫瘍で断脚された場合は,見た目にはかわいそうではありますが,猫はいたって明るく,ほとんど健常な猫と同じ生活が可能です.飼い主が思うほど猫は気にしていません.したがって,獣医師が治療のためのベストの方法として断脚をアドバイスした場合には,これを受け入れるのが動物にとってもベストの選択でしょう.3本足の姿などみたくないという理由で,治療を行わなかったり,安楽死を選択する人もいますが,それは人間の勝手な思いこみかも知れません.そんな場合には猫に問いかけてみてください.「生きたいか?」.
 断脚してもまったく治療の望みがないなら別ですが,少しでも望みがあるなら,足が1本ないということなど気にせず,これからも一緒に生活できる,ということを選択してはいかがでしょうか.この場合も走る際の敏しょう性は落ちますので,交通事故や他の猫に追いかけられる可能性なども考えて,室内飼育がベストです.
 脊髄の損傷で下半身マヒになった動物には特殊なケアーが必要な場合があります.これは膀胱や腸のマヒで自分で排尿・排便ができなくなった場合です.これはこれから毎日のことなので,飼い主としてはそれなりの覚悟が必要です.毎日膀胱をしぼり,あるいは便秘になった場合には便をかきだす必要もあります.そして膀胱炎や腎臓の感染も起こりやすくなります.
 それでも家族ならば最後まで面倒をみるのがあたりまえのことです.自分の毎日のケアーがこの猫の生命を支えているという自覚を持ち,見捨てたり,安易に安楽死を選択しないようにしたいものです.これから一生病気の猫にしばられるというわけでもありません.猫の寿命は人間より短いのです.それまでの間面倒をみてやりましょう.別に旅行に行けないわけでもありません.ホームドクターならば,それまでの経過もすべてわかった上で,旅行の際には預かって看護してくれるでしょう.
 一般にハンディキャップがあると,運動が制限されるので,カロリー計算をもとに適切な食事を選ぶ必要があります.また不活発になったり肥満になったりすると,尿石症にもかかりやすいので,最適な食事管理について病院に相談してください.


ストレス


猫の病気とストレスは密接な関係にあります.いいかえれば,ストレスをさけた生活をしていれば,まずもって病気の予防になるといえます.
猫は何でストレスを感じるのでしょうか.それは猫のいちばん気にすることを考えればわかります.猫がいちばん気にかけていること,それは自分の生活環境,あるいは縄張りでしょう.したがって,自分の住む環境が気に入らない,「侵入者」がいる,自分だけが落ちつく環境を作れない,などがいちばんのストレスになるのです.
たとえば,引っ越しして環境が変わった,見知らぬ人が同居するようになった,家の中に他の猫がやってきた,家の中に猫が大勢いて,自分の落ちつける場所が少ない,などが家の中を縄張りとする猫のストレス要因です.また外に出る猫ならば,家の回りを縄張りとしているところに新しい猫,それも勝てそうもないのが侵入してきた場合,やはりストレスを感じるでしょう.猫は外には出さないのが正しい飼い方ですが,確かに今まで出していたのを急に閉じこめてしまうと,これもストレスになるでしょう.この場合は外の縄張りを見回りに行かなければ気がすまないのですからストレスを感じます.したがって,外に出ていた猫を家の中で飼うようにするには,避妊・去勢手術を行ったり,徐々に慣らしたり,あるいは場合によってはトランキライザー(精神安定薬)を使ったりする必要があるでしょう.
その他環境に関することとして,工事や交通の騒音が急に激しくなった場合,また寒冷などの自然の要因もあげられます.猫は毛皮をまとっていて寒さには強そうですが,家の中の温かい環境に慣れていれば,当然ストレスを感じます.
このようにストレス要因をさぐってみると,猫は環境の急激な変化を望まないことがわかります.そしてその環境の中の最も重要な問題が縄張りなのです.また自由な暮らしというのも,猫の環境として重要です.
こうしてみると,人間の生活に必要な条件ともかなり共通していることがわかります.人間でも,環境が悪く,侵入者があったり,自分の住処が危険にさらされたり,騒音に悩まされれば,大きなストレスを感じることでしょう.ただし人間には,いぬ派と猫派がいます.いぬ派の人間はいぬ同様,主従関係の維持を好みます.したがって誰かに従属すること,あるいは組織に属すること自体が安心につながります.しかしながら,猫派人間と猫は,自由と自分の生活をいちばん大切に思います.したがって猫にとっては,日中飼い主がでかけて孤独というのはストレスになりません.かえって,さみしいだろうというおせっかいから,いぬを一緒に飼うようにするなどというのが,よけいストレスの原因になることもあります.
その他のストレス要因としては,重労働のようなことがあげられます.この代表が子育てです.出産も労働ですし,また授乳も肉体的にきつい仕事です.そして病的なストレス要因は,病気全般です.ストレスが病気の原因になり,また病気がストレスの原因になるのです.これには激しい下痢や嘔吐,呼吸困難,発熱その他の苦しみを伴う病気が含まれます.
ストレスのサインは何でしょうか.まず猫がいつもおびえている様子なら確実にストレスが予想されます.すみにうずくまって出てこない,耳はいつも後ろを向いているなどが典型的なサインです.
場合によっては不適当な排泄行動,すなわち便所以外で用を足すという症状がみられる場合もあります.また食欲不振は様々な病気でみられる症状ですが,ストレス時にもみられることがあります.自分の体をなめて,円形脱毛のように毛が抜けることもあります.ただし猫は,かゆみに対しても,なめる場合があるのでしっかりした診断が必要です.またおなかの毛が薄くなる脱毛症,対称性脱毛症の原因の一つにもストレスがあげられます.もちろん,アレルギー,寄生虫感染,細菌感染,真菌(皮膚糸状菌)感染,性ホルモンまたは他のホルモンの失調なども原因としては重要です.
病院での検査でもストレスはわかります.血液検査で白血球の仲間のリンパ球や好酸球の数をみて減っていればストレスがわかります.ところでリンパ球というのは,体の中で病気と戦う免疫を司る重要な白血球です.ワクチンをうって病気にかからなくなるのは,リンパ球の働きによるものなのです.したがって,リンパ球が減るということは,免疫力の低下を意味しているのです.
免疫力の低下,あるいは免疫のバランスの崩れがウイルス病や細菌感染を引き起こしたり悪化せせます.代表的な病気は猫伝染性腹膜炎(FIP)です.この病気はウイルスにかかっただけでは普通発病せずに治ってしまいますが,過密な環境で飼育されている猫には発病が多く,ストレスとの関連が示されています.またヘルペスウイルスによる鼻気管炎の再発も,ストレスと関係あるといわれています.人間のヘルペスウイルスもストレスで暴れ出すことはよく知られています.
ストレスで発病したり病気が悪化するのは感染症ばかりではありません.ストレスが病気の進行の鍵をにぎる代表的なものは慢性腎不全でしょう.慢性腎不全は老齢の猫には多い病気ですが,それまで病気を持ちながらも腎臓の機能が維持されていた場合に,ストレスにより急に悪化することがあります.さらに悪性の腫瘍(がん)も,その発生の予防には免疫が深く関わっているので,ストレスが続くとがんが起こりやすいということがもしかしたらあるかもしれません.ただ,猫には胃ガンが少ないことを考えると,どうも猫は胃でストレスを受けとめるのではないようです.
猫が好きで飼っている人はたいてい猫派の人間です.自分にとって何がストレスかもう一度考えてみましょう.そうすれば猫のストレスもいっそう理解できるかもしれません.


脱水症

体の70%は水分からなり,血液の主要な成分も,体の各部分を作る細胞もほとんどは水が占めています.また細胞の中で栄養分を代謝するのにも,水は欠かすことができません.
体の水分が欠乏した状態を脱水と呼びますが,口から入る量が少なくなった場合,あるいは多量の尿,下痢や嘔吐で捨てられる水分が多くなった場合に起こります.猫が水を飲んでいるところはあまりみかけないかも知れませんが,缶詰などの湿った食事をとっている場合にはそこから多くの水分をとっています.したがって,食欲不振というのも脱水の原因としてよくあるものです.
野生の猫は獲物をとって食べますが,そのような獲物はたいてい70%が水分で,残りの半分が蛋白,半分が脂肪です.したがって野生の猫の血を引き継いでいる飼い猫も,これに似た食物を好んで食べます.このため缶詰などの湿った食事を与えられている猫では,そう頻繁に水を飲むところをみなくても異常ではないでしょう.
猫用の缶詰は1缶が約180g入りで,1缶には約80%の水が含まれ,1日1缶食べるとすると,それだけで144mlの水分を飲んだのと同じことになります.また2缶食べる場合には,288mlの水をとることになります.実際には,脂肪が代謝されるときに体の中で少し水ができるので,これよりも多く水を飲んだことになるでしょう.ところで普通に生活していても尿や便,あるいは吐く息の中に水が失われるわけで,これが1日で約200ml程度になります.したがって,1缶食べて少しは水を飲んでいれば,あるいは2缶食べていれば,水の量は十分ということになります.
ところが1日の水の必要量は,気温が高い,病気で熱がある,運動量が多いといったことで多くなりますし,また下痢や嘔吐,多尿(腎臓病な


E-Mail : asakayama@mac.com

Asakayama Animal Hospital Web Page , since 2005.3.11
Updated: 2005.3.11 | Copyright(C)2001 Asakayama Animal Hospital. All rights reserved.

This page maintained by Hiroshi Nakatsu,DVM.