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ワクチンのある伝染病


浅香山
動物病院
 


ワクチンのある伝染病

 猫のかかるウイルス病のうちいくつかは、ワクチンで予防できます。現在日本で使用できるワクチンは4つの病気を予防できるものです。生まれたての子猫は、ふつう母親のミルクで親譲りの免疫をもらい、離乳する頃まではこれでいろいろな病気から守られています。しかし、離乳するころになると親譲りの免疫は効き目が薄くなり、全くの無防備になりますから、早めに獣医師とワクチン接種の時期について相談し、確実に病気から守られるようにしたいものです。

1.FPV 猫汎白血球減少症(猫伝染性腸炎)
2.FVR 猫ウイルス性鼻気管炎
3.FCV カリシウイルス感染症
4.FeLV 猫白血病ウイルス感染症


1.FPV 猫汎白血球減少症(猫伝染性腸炎)

症状 猫汎白血球減少症ウイルスという猫のパルボウイルスが原因の病気です。とくに子猫や若い猫が発病しやすくウイルスに感染してから短い潜伏期間で(数日)急に症状が出ます。またきわめて伝染力の強いウイルスが原因なので、同腹の子猫が次から次へと発病することも珍しくありません。最初の症状は元気と食欲がなくなることで、水も飲まなくなり、じっとうずくまった状態になります。このときさわってみると熱があるのがわかるかも知れません。次第に嘔吐が激しくなり、脱水症状がみられるようになります。下痢はあるものとないものがあるようです。激しいものでは血便がみられることもあります。この病気では体が細菌などと戦うために必要な白血球が非常に少なくなるので汎白血球減少症という正式の病名がつけられていますが、白血球がなくなったために、いろいろな病原体に対する抵抗力が一次的に下がります。この時期に脱水がひどくなり、体温も低くなると良くない兆候で、不幸にして助からない猫もたくさんあります。病院では血液の白血球数を調べ、水分、栄養の補給に努め、猫自身の力でウイルスに打ち勝つのを助けるようにします。回復した猫には強力な免疫ができ、終生この病気にはかからなくなります。妊娠中の母親が感染すると、ウイルスは胎盤を越えて胎児にかかり、流産や死産がみられたり、分娩の前後に子猫に感染すると、脳に異常を持つようになることがあります。
予防 猫汎白血球減少症のワクチンが猫用ワクチンとしては一番古くからあり、多くの猫が接種をうけ、確実に予防効果がみられています。しかしながら一方では、ワクチン接種を受けない野良猫、捨て猫が屋外で増え続けています。このようなワクチン接種を受けていない猫がいる間は、ウイルスは次々に感染して行って絶えることはないでしょう。したがって家から一歩出れば、そこはウイルス汚染環境です。とくに猫汎白血球減少症の原因となるパルボウイルスは強いウイルスで、人間の靴についてどこにでも行って、そこに無防備な猫がいれば感染してしまいます(洗剤やアルコールでは死なず、ブリーチかホルマリンしか効果がありません)。このような恐ろしいウイルスから猫を守るためには、厳重に家の中に閉じこめて玄関にも出さないか、あるいはワクチン接種をすることしかありません。厳重な閉じこめというのは現実的ではありませんし、実際に高層マンションで飼われている猫でも発病があることから、人間が道に落ちているウイルスを運んでしまうことは防ぎようがないと思われます。したがって子猫の時期から正しいワクチン接種を行なうのがベストで、現在健康に暮らしている猫の多くは、そのようにして守られているのです。


2.FVR 猫ウイルス性鼻気管炎

症状 猫ウイルス性鼻気管炎の原因ウイルスは猫のヘルペスウイルスで、感染猫のくしゃみ、分泌液などから感染します。このウイルスにかかると3−4日で急に元気・食欲がなくなり、熱も上がります。そして鼻水が出るようになり、くしゃみも激しくなります。目も涙眼になって、結膜炎がおこります。よだれを出す猫もいます。症状が始まってから3−4日で一番病気は激しくなり、通常はその後 1週間位で回復します。子猫ではものが食べられずに脱水や衰弱が激しいと生命に危険もあります。また抵抗力がなくなり、細菌感染が一緒におこると、症状が激しくなったり病気が長引くこともあります。病院では分泌液で汚れた眼や鼻をきれいにして、脱水や栄養不良があればそれを治し、細菌感染を予防・治療して、猫が自分で病気を治して行くのを助けます。一般に急性の経過で病気が終わるのは、猫にウイルスに対する免疫ができるからです。ところがこの免疫がくせ者です。体の中に免疫ができると通常はウイルスは殺されてしまうのですが、ヘルペスウイルスはなかなか賢いウイルスで、神経細胞の中に隠れてしまうのです。人間でもヘルペスウイルスはこのような悪さをして、体の中に居ついてしまうことがよく知られています。隠れてしまったウイルスは、時間が経って猫の免疫が下がってきたときに、あるいは猫がストレスを受けたときに、またのそのそと出てくるのです。一度免疫ができている猫ではすぐにまた免疫が上がるので、このとき症状が出ることはないのですが、困ったことにウイルスを体外に出して、他の猫に移してしまうことがあるのです。ここで症状が出ないということは、外見上どの猫がウイルスを出しているかはわからないということです。ですから、一度この病気にかかった猫というのは、免疫も持っているが、ウイルスも持っている、すなわち感染源になるということを知っておく必要があります。
予防 予防の原則は感染源との接触を絶つこと、ワクチンで予防することです。くしゃみ・鼻水・涙眼という症状が出ている猫ならば一目で感染源とわかりますが、問題は前に述べた一度かかって後から無症状のままウイルスを放出するものです。昔はこのウイルスのワクチンがなかったわけですから、現在中年から老年の猫というのは、ほとんどが一度はかかったものと考えられ、その多くがたまにウイルスを放出している可能性があります。

母親が以前この病気にかかったことがあると免疫ができているので、子猫にはミルクを介して親譲りの免疫が伝えられます。したがって子猫は大体離乳までくらいは病気から守られますが、それ以上長続きするものでもありません。離乳の頃母親は、それまでの子育ての疲れがどっと出て、ストレスのたまった状態になります。そうするとウイルスはこの時とばかりに活動をはじめ、鼻の粘膜から外に出てきます。するとちょうど無防備になった子猫にウイルスは移ってしまうのです。このようにしてウイルスは猫から猫へ渡り歩き、猫の集団内にすっかり定着してしまうのです。このように、感染源がはっきりわからない場合、あるいは母と子のようにきわめて近い距離にある場合、感染源を絶つというのは現実的ではありません。そこで、ワクチンでこれから生まれてくる子猫をすべて守って、ウイルスの行き場をなくしてしまおうというのが、新しい予防の考え方です。多くのウイルスというのは、動物の体を離れてしまえば比較的弱いもので、行き場がなくなれば自然に消滅してしまいます。現にこのワクチンが最初に開発されたアメリカでは、動物病院に来る猫のほぼ100%ワクチン接種を受け、最近ではこの病気を見ることもほとんどなくなりました。効果的にウイルスを撲滅するためには、みんなが一致団結して行動を起こすことが必要です。すなわち1頭1頭の免疫ではなく、世界中の猫の集団の免疫を高め、ウイルスが逃げて行く所をなくすことが必要なのです。


3.FCV カリシウイルス感染症

症状 猫のカリシウイルスが原因のこの病気はいろいろな症状を引き起こし、一部はヘルペスウイルスによるウイルス性鼻気管炎によく似ているもの、一部は激しい肺炎で子猫が死亡するものなど、いろいろな型があります。これは流行するウイルスの型で病気がそれぞれ異なるためです。これまで知られている型としては、鼻気管炎と似た症状を起こすもの、口の中に潰瘍を作るもの、肺炎をおこすもの、腸で感染してとくに症状は出さないものがあります。感染は他の病猫との接触などによりおこりますが、感染の機会があってから約3日の潜伏期で症状が出ます。発熱、元気・食欲の低下は症状を出す3つの型に共通していますが、その他の症状は多様です。涙や鼻水、結膜炎、舌・くちびる・口の中・鼻の頭の潰瘍、肺炎(子猫がじっとうずくまり呼吸が荒くなったら要注意)のいずれかが見られます。普通は約2週間以内には回復しますが、肺炎をおこしたものでは死亡することがよくあります。回復した猫では免疫ができ、その後症状を見せることはありませんが、ヘルペスウイルスと似てウイルスが長く居座ることがあります。ヘルペスウイルスの場合は潜伏ですが、カリシウイルスの場合は持続感染といって、常にわずかな量のウイルスが体外に出されます。したがってカリシウイルス感染症の場合も一度かかった猫は免疫も持っているがウイルスも持っていて、他の猫に対して感染源となる可能性があることを覚えておきましょう。病院での治療はウイルス性鼻気管炎の場合とほぼ同様ですが、肺炎がひどくなると、最善の努力にもかかわらず命を落とす猫もいます。
予防 予防はウイルス性鼻気管炎の場合と全く同じです.ヘルペスウイルスよりもやや強いウイルスなので,環境の消毒にも注意した方が良いかも知れません.洗剤やアルコールではカリシウイルスは死なないので,消毒にはブリーチかホルマリンが必要です.病気のねこのシーツなどは,ブリーチにつけてから洗濯するのがよいでしょう.ねこの3種混合ワクチンにはカリシウイルスも入っていますので,子ねこの時からきちんとワクチンを行っておけば安心です.いろいろな型のウイルスがいても,呼吸器病を起こすタイプのウイルスに対しては,すべて免疫ができます.とくに恐ろしい肺炎からねこが守られるというのは重要なことです.そして,自分のねこにワクチンを受けさせるということは,ねこの集団の免疫を高め,ウイルスに感染する猫を減らし,ウイルスの行き場所をなくすことだということを再認識しましょう.


4.FeLV 猫白血病ウイルス感染症

症状 猫白血病ウイルスという名前から想像できるとうり、白血病の原因となります。しかし白血病だけでなく、貧血や免疫力の低下、流産、腎臓病などいろいろな病気の原因になり、感染・発病した猫は3-4年以内に死亡します。ただし感染しても治ってしまう猫もたくさんいることを覚えておく必要があります。これは感染したときの猫の年齢と深い関係があります。生まれたてで感染するとほぼ100%が持続感染になります。持続感染というのは常にウイルスが体のどこかで増えている状態をいいます。このような猫は発病しやすくほとんど死んでしまいます。ところが離乳期を過ぎて感染した場合は約50%しか持続感染になりませんし、1歳以上の猫では10%しか持続感染になりません。このような性格のウイルスなので症状といってもひとことでは言い表せません。感染して最初の1-2カ月は、熱が出たり食欲がなかったりというように他のウイルス感染と同じような症状ですが、重大な病気はもっと後になってから出ます。直りにくい慢性の病気、常に病気がち、貧血などがみられたらこのウイルスも疑って検査を受けるのがよいでしょう。
予防 最近ワクチンが開発されました。ただし既に感染してしまっている猫には無効ですので注意してください。感染した猫は血液検査によって簡単に発見できます。感染源と接触させないというのが有効な予防法となります。感染した猫は唾液の中にウイルスを出すので、同居していて常になめ合っていれば感染することがあります。家の中に猫白血病ウイルスに感染した猫がいる場合には部屋を分けたりする必要があるでしょう。外にいる野良猫は感染しているものはそう多くなく、また弱いウイルスなのですれ違った位で感染する心配はありませんが、やはり危険はあるので抵抗力の弱い1歳未満の猫の外出は注意した方がよさそうです。検査の結果、猫白血病ウイルスに感染しているといわれた場合には、猫の体の中で目には見えない障害が起こり始めている可能性があります。ですから外に出て悪い病気を拾ってこないように、また他の猫にウイルスをうつさないように、家の中で生活させてください。人間や犬への危険はありません。治療としてウイルスを打ち負かす治療法はありませんが、この感染症のいろいろな病気の場合、ウイルスは裏で暗躍しているだけで、現在の重大な病気には直接関係していない場合も多いのです。ですから白血病があれば化学療法を行いますし、激しい細菌感染があれば抗生物質の投与を行います。


猫のワクチン接種について

 子猫の接種時期は原則的には生後8-10週に第1回、1カ月後に第2回ですが、かぜの症状を出している猫が多数同居している場合など状況によって変わり、また3回接種が必要な場合もありますので、獣医師に相談して下さい。その後は年1回の追加接種が必要です。成猫の場合は健康ならばいつでも接種可能です。また1度かぜのような症状を経験したことのある猫は、すでにウイルスにかかっていて、免疫ができている可能性も考えられますが、2種類のどちらかだけの免疫しかできていないとしたらもう一方には無防備ですのでワクチンを接種した方がよいでしょう。またすでに免疫ができているとしても、ワクチンで免疫の追加をしてやるわけですから、免疫の持続期間が伸びます。かりにウイルスが居座っている猫でも、免疫を高めることによってウイルスをより強力に封じ込める効果があるでしょう。
 ワクチン接種は健康な猫だけに行なうべきですが、注射当日は激しい運動、シャンプーなどは避けるようにします。まれに過敏な猫では注射後に元気がなくなったり、食欲がなくなったりすることもありますが、症状が長く続くようでしたら病院に連絡するのがよいでしょう。妊娠している猫にはワクチン接種をするべきではありませんが、生まれてくる子猫がことごとく感染してしまうような問題のある家庭では、雌猫に交配前に接種して免疫を高め、子猫に強い親譲りの免疫が伝えられるようにすることもひとつの手段でしょう。
ワクチンを接種したからといって、不必要に症状を出している猫と接触させたりするのは避けてください。ワクチンを接種してあっても、ごく軽い症状が出ることもあります。免疫があるのでウイルスが体内奥深くまで侵入することはありませんが、呼吸器感染症ウイルスの場合は眼の表面で少し感染して涙眼になったりすることはあります。猫汎白血球減少症は体内でおこる病気なのでワクチンで完全に防げます。 



           


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