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浅香山
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猫の病気

猫の好酸球性の皮膚病


好酸球が起こす皮膚病

好酸球性の皮膚病というと,おそらく一般の猫の飼い主の方にはわかりにくいと思います.好酸球というのは血液の中の白血球の1種で,染色して顕微鏡でみるときに,酸性の色素によく染まることから,酸を好む白血球すなわち好酸球と呼ばれているものです.好酸球は,本来は寄生虫感染に対する防御を行うために体に備えられた白血球で,寄生虫の表面に似た物質,すなわち花粉の一部や,動物の毛の表面などにもよく反応します.したがって,文明の進化とともに人間には寄生虫病がほとんどなくなり,仕事が暇になった好酸球が,いろいろなものに対するアレルギー反応に積極的に参加しているという説もあります.猫ではこの好酸球が皮膚に集まって特徴的な病変を作り,しかもアレルギーと密接な関連が疑われる病気があります.


好酸球性肉芽腫群

これが好酸球性の皮膚病の総称ですが,できればこれからは使いたくない病名です.この名前に「群」という言葉がつけられているのは,これ自体一つの病気ではないというニュアンスです.すなわち,目でみただけでも大きく3つに分類されます.
まず口唇(くちびる)に発生する無痛潰瘍というものがあります,これは,くちびるがそげたようになる病気です.ただし「無痛」という言葉は本当にこの病気をよく表してはいません.猫は痛みを感じているはずです.これは英語の病名を日本語に訳す際に別の訳語が与えられてしまったためで,本当は「ゆっくりと進行する」という意味だと思います.ここでは単に口唇の潰瘍と呼んでおきます.
次に,頚部,腹部の皮膚にみられる好酸球性プラークというものがあります.プラークというのは脱毛して湿った,平坦にやや盛り上がった広い部分で,日本語では「局面」と呼ばれます.
さらに,後肢の後面などに発生する線状肉芽腫があります.これは名のとおり,線状に盛り上がった病変として発見されます.また線状ではなく,口の奥の舌の上に球状の盛り上がり(結節)として現れる場合もあります.
診断
まず病変やかゆみが,ある季節だけ発生するのか,通年の問題なのかを考えます.身体検査で,どのようにみえる病変が,どこに存在するのかは重要な決め手になります.さらに局所から針で細胞を吸引し,あるいは組織の一部を切除して,顕微鏡で検査して,好酸球が多いかどうか,細菌などのよる化膿性炎症ではない,腫瘍ではないなどの所見をもとに診断します.また血液の検査で好酸球が多いというのも,この病気を示す一つの情報です.ただし,ここまでの検査では,好酸球による皮膚の病気があるということがわかっただけで,何が原因なのかははっきりしていません.原因として様々なアレルギーが示唆されているので,できるだけ原因の究明を行うようにします.
原因の究明
猫の背中によく発生する痂皮と丘疹(小さな隆起の上にかさぶた)の病変は粟粒性皮膚炎と呼ばれていて,この場所にみられる場合ほとんどがノミアレルギーといわれています.実は,この病変を切り取って顕微鏡検査すると,好酸球性プラークの小さいものだということがわかります.すなわち粟粒性皮膚炎がいくつもつながったものが好酸球性プラークといえます.そして,粟粒性皮膚炎はその他の部位にも起こることがあり,たとえば耳や鼻のあたまに夏に集中してみられる場合は,蚊に刺されることによるアレルギーといわれています.また,耳の前や頚部などには,好酸球性プラークも粟粒性皮膚炎も食物アレルギーで発生することがあります.さらに口唇にできた潰瘍が,ノミの発生と一致していた,ノミを退治すると病気が消えたという事実もあります.したがって好酸球性の皮膚の病気は,様々なアレルギーによって発生するという考えが,最近では主流になってきています.しかしどのアレルギーでどの病変が出るかというのは特に決まりがないので,これをみたら何々アレルギーとはいえないのです.したがって,猫に多いアレルギーを次々に検討して行く必要があります.


ノミアレルギー

猫の体にノミがいるならば,あるいはノミの糞がみられるならば,まずノミコントロールを行ってみます.これには,猫の体をピレスリンムース,シャンプーなどで処置し,次に環境コントロールも十分行います.大切なことは,環境内の卵,幼虫,さなぎを除かないと,あるいは外に行った場合の再感染を防止しないと,問題のコントロールにならないということです.


食物アレルギー

頭部や頚部の皮膚を中心に激しい痒みを伴った病変を作ることが多く,引っかき傷のため細菌が感染して激しい病変にみえることもあります.診断には猫がこれまで食べたことのないと思われる蛋白質を1種類選び,家庭内で調理して,最大で約2カ月ほど与えてみるのがベストです.もちろん,かゆみや病変はもっと早くとまるかもしれませんが,反応がみられない場合には2カ月間観察を続ける必要があります.魚にアレルギーが疑われたら,ターキーやラムにしてみるのがよいでしょう.ただしこの場合,他には水道水だけしか与えてはならず,余分な調味料も油も使用しなければ,もちろんおやつもいけません.また市販の「低アレルギー食」というのも,単一の成分ではないので,最初の2カ月間は使ってはなりません.これでかゆみと病変がとまるようなら,次に1種類の内容物あるいは市販の療法食を加えて1週間観察し,再発がなければ維持のためのレパートリーに加えて,これから一生の間,このようにして探した安全な食事を食べさせます.


アトピー

アトピーは花粉やハウスダストなどのアレルギー原因物質の吸引による皮膚病で,猫では犬よりも少ないようですが,ノミや食事で解決がつかない場合には検討が必要です.原因物質によって病気が季節性の場合も季節に関係ない場合もあります.猫はかゆみに対して毛をなめて左右対称の脱毛を起こしたり,粟粒性皮膚炎がみられたり,あるいは顔面がかゆくて口唇,鼻,眼周囲をこすったり,好酸球肉芽腫群の病変ができたり多様です.
治療
好酸球性の皮膚の病気を消失させるのは,ステロイド注射で可能です.しかし,原因について治療しないと,必ず再発します.したがって,真の治療は,アレルギーの原因を取り除くことでしょう.ノミや食事については比較的これは容易です.しかし,アトピーの原因を特定したり,除いたりすることは必ずしも容易ではなく,様々な痒みを止める薬を使わなくてはならないこともあります.


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